「じゃぁ、どうしたら良いの?」

どうしたらよいの?イメージ画像 この数ヶ月間、急激に新型コロナウイルス感染症(新型コロナ感染症と略)の感染者が激増しています。最近、イギリスで感染力の強いこのウイルスの変異型が現れた、とも報じられています。
 私は、「脳神経内科・内科」で開業している医者ですが、平成20年(2008年)の新型インフルエンザ襲来時に京都市の保健衛生部長として市民の感染症対策に従事しましたので、その時の経験を思い出しながら、新型コロナ感染症の報道を見ています。
 そして、報道を見ていると本当にいろいろな意見の方々が登場されます。
 古くは3密のことやマスクのこと(有効と言う人もいれば不十分と言う人もいる)。過剰に心配するな(カゼの様な症状が大半だから!)と言う人、重症化すると死ぬから大変だと言う人。ワクチン、PCR、抗体検査、についてのあれこれ。或いは、GoTo事業は感染拡大に関係はない、いや、ある、など。そして連日「数百人の人達が感染しました」と。 「じゃぁ、どうしたら良いの?」

 意見を仰ってる人達は善意で意見を言われていると思うのですが、細菌やウイルスを見たこともないし、肺炎でさえ、身内の中で一人二人しか経験したことのない、医療の世界に縁の無い「普通の人達」で「コロナ鬱」状態になった様な患者さん達から「どうしたらいいんですか?」と質問を受けると、この情報の洪水を前にして、どのように毎日を過ごしたら良いのか、果たして分かるのかな?と。
 そして、私達ができる事って、結局、<手洗いとマスク着用と、人の集まる所を避けましょう>、ぐらいしかありません。それなら、私達ができることについて、もう一度考えてみてはどうか?と思い、「脳神経内科・内科」の医者が分不相応に自院のホームページにコラムとして掲載することにした次第です。3回目と4回目の2回に分けて掲載します。
 おおまえ医院のホームページを(偶然?)読まれた皆さんのお役に立てば幸いです。

「感染経路をちゃんと知る」ということに尽きます。

 さて、感染症が私達人間に与える「怖さ」ってなんでしょう?
 仮に目の前にサソリやマムシがいたとしても、恐ろしい存在だけれど1メートルも離れれば怖くありません。でも、透明サソリや透明マムシがいると怖いですよね。つまり、感染症の怖さの原因の1つは眼に見えないモノが病気を引き起こすから、と言うことは確かにあります。
 ネットで検索しますとコロナウイルスの大きさは平均120nm(ナノメートル)と書かれています。つまり、1ミリから2ミリの1/10000、の大きさ、と書かれています。見えるわけがありません。ですが、肝炎ウイルスもエイズウイルスも見えませんし、これらの病気も重症化したら命を落とす大変な病気ですが、今では、多くの人達は、冷静に対処されている感染症になっています。それは、主に血液によって感染することが分かっているので、隣で咳をしている人からこれらの病気がうつることは無い、と知っているから、ですね。
 そうです。つまりは、どのようにしたら感染するのか?言い換えれば、どのようにすれば感染しないのか?が分かっておれば、眼に見えなくても怖い存在ではなくなります。
 つまり、当たり前な事ですが、感染症は、ウイルスや細菌が「私達の体内に」入らないと発病しませんから、私達の怖さを解く大事な事は、ウイルスが眼に見えるかどうか、ではなく、どうすれば感染をブロックできるか、つまり、「感染経路をちゃんと知る」ということに尽きます。

新型コロナウイルスはどうやって「私達の体内に入る」のでしょう?

 では、新型コロナウイルスはどうやって「私達の体内に入る」のでしょう?
 ここで皆さんに確認のための回り道をしておきます。
 私達の「身体の中」ってどこでしょうか?
 例えば、鼻の穴にゴミが入りました。これは身体の中にゴミが入った事になりますか?例えば、皆さんの幼いお子さんやお孫さんがパチンコ玉のような消化されない小さな金属球を飲み込んだとします。これは身体の中に入ったと思いますか?
 多分おわかりだと思いますが、これらは、身体の中に入ったことにはなりません。つまり、鼻の穴も胃袋も小腸や大腸の中も、実は、身体の中ではないのです。身体の中に入るためには、表面をおおっている粘膜というところ(粘膜組織)にくっついて、粘膜を作っている細胞(粘膜細胞)に侵入していかねばなりません。あるいは、なんらかの方法で粘膜組織に分布している血管に侵入していかないと身体の中に入った事にはなりません。
 ブドウ糖や脂肪などの栄養素は身体に必要なモノですから粘膜細胞がいろいろな仕組みを使って取り込んでいきます(これが消化管の吸収になるわけです)  ですから、ウイルスが鼻の穴に入って、気管の中に空気と一緒に入っていっても、それだけでは身体の中に入ったことにはなりません。もちろん、身体の中に入るためには、吸い込まれた空気と一緒に入っていく途中に粘膜組織にペタッとくっつかないと、入れませんが。

 では、私達の身体の中にウイルスが入る経路について考えます。
 もう毎日毎日いろんな先生方がテレビなどで話されています。その内容を大きく整理しますと、A)感染している人の咳を近くで浴びる、B)換気不十分な部屋に居続ける、C)換気をしていても人が多くいる場所(部屋や満員電車など)にいる、の3つが指摘されています。これは、報道番組で言われている言葉(用語)で言うと、「3密」のことです。A)は密接、B)は密閉、C)は密集、ですね。
 それぞれの感染の仕方を改めて書きますと、次のような仕方、だと考えられます。
 A)は、(咳をした人が感染者だとして)まともに受けた咳の中に含まれるウイルスを呼吸によって吸い込む事で起きる感染。咳をした人の「しぶき」や、「しぶき」がある程度乾燥して眼には見えないけれど霧状になったもの(この眼には見えない霧状になったものをエアロゾル、もしくはマイクロ飛沫、と専門家は言います)を吸入することで感染します。
 B)は換気されていないために多量のウイルスが漂う空間(部屋・電車内)の空気を吸い込む結果として多量のウイルスを吸い込む事で起きる感染。A)に書きました眼に見えない霧状のもの(エアロゾル、または、マイクロ飛沫、と呼びます)が換気不十分になったためにウイルスを含んだ霧状のモノが濃密に浮遊している部屋の空気を吸うことで感染します。
 つまり、A)もB)も多量のウイルスを吸い込むことで鼻や気管の粘膜にウイルスが付着して体内に侵入する、と理解できます。

 では、C)も同様でしょうか?違いますね。
 私たちは朝起きてから夜寝るまでに<ごく自然に>自分の鼻や口を触ることがあります。そうしますと自分の手に<ごく自然に>鼻水や唾液が付着します。ところで、このウイルスは鼻水や唾液の中に<多量に>存在します。そのため、鼻や口を触った手にウイルスが<多量に>付着します。ところで、私達は<ごく自然に>その手であっちこっちを触ります。歯磨きや歯ブラシ,着ている服,部屋のドア,電車のつり革やドアの取っ手、…などです。このように、あっちこっち触ることで、結局、ウイルスをあっちこっちに付着させてしまいます。しかも、このウイルスはドアノブや椅子などに付着して、状況や状態によっては何時間も何日間も感染する力を保つ場合があります。
 例えば、ステンレス表面では96時間程度生存することが分かっています。(凄い!)
そういう状態で、ウイルスが付着した所を感染していない人が触ることで、結局、その人の手や指にウイルスが付着します。そして、そのウイルスが付着した手や指で口を<ごく自然に>触ったり、眼を<ごく自然に>こすったりすることで、口や眼に入ります。そうして、口や眼の中の粘膜に付着して、体内に侵入してしまうんですね。
 しつこく細かく書きましたが、C)の感染は、このように誰かが<ごく自然に>あっちこっちに付着させてしまったウイルスを私達が<ごく自然に>私達の手や指にウイルスを付着させてしまって、結局、私達の口や鼻に付着して起こる感染です。
 「接触感染」と言う言葉に引っ張られて、感染した患者さんに接触する(=触れる)事で起きる感染だと誤解している方がおられますが、そうではなく、皆さんの手指にウイルスが付着することで起きる感染です。

 このように、A)B)C)を考えてみますと、それぞれに飛沫・エアロゾル(マイクロ飛沫)・接触、の感染の経路が関わっていますが、その中でも、A)は咳,B)は換気不足(+多人数),が特に大きな比重を占めています。ですから咳や換気不足の部屋は「避けよう!」という気持ちが起きやすいのですが、C)は<ごく自然に>行う行動の連鎖ですから、いつの間にか感染してしまう場合が多いのです。
 さらに、この感染症では無症状の感染者が多数報告されていますので、咳をしている人だけを「目の敵」にしても無意味です。無症状の人達が<ごく自然に>そこらじゅうを触っているでしょうし、結果として、ウイルスは既にそこらじゅうに付着しているはずです。ひょっとして、私達自身が無症状感染者でそこらじゅうに広げているかもしれません。

 ここでとても重要な研究結果がありますので紹介します。

 ちなみに、これまでの数理モデルによる推計研究では、全体の感染が100人いたとして、有症状者からの感染が40人(=40%)、症状が出る前の無症状な時期の人からの感染が45人(45%)、完全な無症候者からは5人(5%)、そして環境からの感染(接触)が10人(10%)という結果が出ています。
 ここで、有症状者とは咳などの呼吸器症状や発熱症状になりますが、症状が出る前の人や完全な無症状者は、無症状ですから、咳などもありませんので、上述しました様に接触が新たな感染を引き起こしている、と考えられます。つまり、手指からの感染、が45+5+10=60人(60%)ほどになります。有症状者からの感染が咳による飛沫やエアロゾルだけとは限りません、手指からの感染もある程度あるでしょうから、手指からの感染は全体の60%以上になると考えられます。

 以上、感染経路について細々と書きました。まとめます。
 A)B)では吸い込んだウイルスが鼻や気管の粘膜に付着することで体内に侵入し(手指からの感染もありますが)、C)では知らぬ間にウイルスが付着した手指で触った口や鼻の粘膜から体内に侵入します。体内侵入経路はこれらだけです。
 そうしますと、私達が取り得る対策は、この侵入路を断ち切ること、になります。

 次回に、以上の事を踏まえて具体的方法を書いていきます。

大前 記(2020年12月20日)