このコラムを読もうとしているあなたはパーキンソン病に関心のある方だと思います。

イメージ画像ですが、パーキンソン病ってどんな病気かな?という疑問の答えを得ようとしてこのコラムを読もうと思ってられるのでしたら、このコラムは適切ではありません。
現在では、ネットで「パーキンソン病」の言葉を打ち込むだけで、パーキンソン病の症状・原因・治療、そして医療費助成までも丁寧に書いて下さっている専門家の記事を容易に見つける事ができますので、そちらを読まれる事をお奨めします。
 私がこのコラムを書こうと思ったのは、私自身がパーキンソン病の患者さん達を診ていて「難しいなぁ」と痛感する事がよくあるのですが、私が痛感する難しさについて書かれている記事を見ることがあまりないなぁ、と感じた事が第一ですが、それだけでなく、「私が痛感する難しさ」って、実は、パーキンソン病と戦っておられる患者さん自身にとっても、パーキンソン病の患者さんを身内に持ってお世話されているご家族にとって、「難しいなぁ」と感じる事に通じるのでは無いかな、と思いました。
 そうであれば、このコラムを書くことで皆さんのお役に立てるかな、と思った次第です。
 ですから、パーキンソン病そのものについての知識を得ようと思われている方のお役には立てない様に思いますので、そのことを先にお断りしておきます。

パーキンソン病は、40歳以下の方でも発病することはあります

 さて、パーキンソン病は、40歳以下の方でも発病することはありますが、だいたい50歳代から60歳代で発病することが多く、特に60歳代での発病がもっと多いとされています。ただし、70歳以上では100人に1人の割合で患者さんがいると言われています。

 実はこの発病の年齢がパーキンソン病患者さんの治療を難しくしています。

 まず、身体の面から50歳代60歳代という年齢を考えてみます。

 そうしますと、糖尿病や高血圧症を患っている人なら小さな脳梗塞を起こしていて「しびれ」や筋力低下が出現してくる事があります。

 またこの年齢になりますと、数十年間の人生で、無理をかけてきた首の骨(頚椎)や腰の骨(腰椎)に変形が起きて、手指や脚にしびれや筋力低下といった症状が出てくることがあります。

 しかも、最近では、パソコンなどでの業務(OA業務)が一般的になって座業の時間が非常に多くなったことで身体を動かさない事が多くなりましたから、便秘で困る人が非常に多くなっています。そして、ご存じの通り、パーキンソン病の主症状の一つが便秘です。

 実は、これらの症状が特殊な出方をした場合にパーキンソン病の症状のように見える事があるのです。

典型的なパーキンソン病の発症の仕方

 典型的なパーキンソン病の発症の仕方は、左側か右側のどちらか一方の手や腕、もしくは脚が「こわばって動かしにくい」、或いは、「震える」、といった運動症状から始まる事が多いのですが、脳梗塞でも小さな梗塞の症状では、感覚が鈍くなるとか麻痺で動かしにくい、といった典型的な梗塞症状ではなく、‘ちょっと’手や腕(もしくは脚)に力が入らないために手や腕(もしくは脚)がこわばって動かしにくい、という症状が起きる場合があります。或いは、腰椎症の症状でも、腰痛の自覚が殆ど無くて脚の「こわばり」だけが腰椎症の症状であるような場合があります。

 他院から来られた患者さんで「手や指が震える」ということでパーキンソン病として治療されていたという患者さんでしたが、「震え方」がパーキンソン病らしくない事と指が‘変に’痩せていて、おかしいな、と思い頚椎の診察をしましたら頚椎の障害からくる手や指の震えであった患者さんがおられました。

 こういった患者さん以外に、薬剤性パーキンソン症候群と言って、他科の先生から処方されているお薬がパーキンソン病の様な症状を起こす場合もあります。

社会生活の面から考えてみます。

 さて、今度は身体の面からではなくお仕事など社会生活の面から考えてみます。

 すると、50歳代60歳代という年齢の特徴として、何らかの仕事に就いておられる方であっても、家庭を切り盛りしておられる方であっても、視力や視野が疲れやすくなる年齢である事が第一に挙げられます。

 そうして、それにもかかわらず、現在の社会生活ではキーボード作業でパソコンのモニターを見つめたり情報収集のためのスマホ凝視が多くなっているために、眼精疲労が起きて首や肩の痛みが起きたり(頸肩腕症候群の発症)、長時間の座業によって腰の骨を痛めたり(腰椎症の発症)する方が多くなっています。

 以前、ロキソニンなどの鎮痛剤でだましだまし頸肩腕症候群の痛みを抑えてきた方で、どうしても我慢できないぐらいのひどい痛みが出現してきて、痛みと同時に手指の震えや右側(左側)の手足の‘筋肉痛からくる’「こわばり」も出現してきたのですが、「震える=パーキンソン病」「こわばる=パーキンソン病」とネットで調べられて,不安になり「パーキンソン病ではありませんか?」と飛び込んで来た患者さんがおられました。

非常に困惑するのは…

 以上に書いてきた事は、初診時の症状を丁寧に診察すればパーキンソン病かそうでないか、についてはだいたいは分かる事が多いのですが、非常に困惑するのは、パーキンソン病で診ている患者さんが、新たに「脚が出にくい」「震えが増えてきた」「手指や脚に力が入らない」といった症状を訴えられた時です。

 50~70歳代でしたら、脳梗塞・頚椎症・腰椎症、などを併発されている患者さん達は普通におられます。パーキンソン病の悪化か?と思っていたら、新たな脳梗塞の発症だった事もよく経験してきました。

 分かってしまえば、「な~~んだ」なんですが、結構、悩むこ時があります。

 ご本人やご家族でも、このような悩みを経験されたことはありませんか?

 パーキンソン病の患者さんを診ていくときの難しさを考える時、パーキンソン病そのものが運動障害だけでなく認知障害や立ちくらみなどの自律神経症状などいろいろな症状が出現する病気である、という難しさだけでなく、パーキンソン病の様な症状を示す脳梗塞や頚椎腰椎の病気が発症したのではないか?ということを視野に入れて診る事の難しさがあります。

最後に

 最後に、自戒(自分への戒め、注意)の気持ちで記憶に留めている患者さんの症状を紹介して、今回のコラムを終わりにしたいと思います。

 大変進行したパーキンソン病の患者さんで大動脈弁閉鎖不全症も持っておられる患者さんでした。パーキンソン病が進行してきてパーキンソン病のお薬がなかなか効かなくなってきたので、そのお薬調整(有効な薬を合わせること)のために脳神経内科の多数の専門医を擁する大きな病院に数ヶ月間入院されることになりました。入院中も、ちょっと歩いただけでも大変息苦しくなり疲れてしまうため、脳神経内科の担当医師はお薬調整に大変苦慮されたようです。お薬調整はすんだのですが、それでも「しんどい!」という状態は改善しなかったのですがいつまでも入院できず退院となりました。

 それで、その患者さんは退院するとすぐに私の診察に来られまして「なんとかして欲しい」と。それで私なりに全身チェックをしましたら「脚のすね」が大変むくんでいる事に気がつきました。手指も冷たい状態でしたので、気になって心音を丁寧に聴診しましたらちょっと気になる音が聞こえました。弁膜症の悪化により心不全が悪化していたのです。

 しかし、進行したパーキンソン病の患者さんは手足の先が冷たくなっている事はよくありますし、パーキンソン病は手脚の動きが悪いので「脚のすね」がむくんでいることもよくあります。そして、ある程度の重症度の心臓弁膜症や心不全であれば心電図でも引っかからない場合があります。

 ですが、心不全だったのです。心不全の治療を早速行い、元気になられました。

 この患者さんのことは、決して他の先生の問題ではありません。私も同じ間違いをしないとは限りません。自戒の気持ちで心に刻んでいる患者さんです。

大前 記(2021年2月1日)