パソコン・スマートフォンイメージ画像 前回、食べた食材がそのまま身体に入るのではないんですよ、という事を書きました。
それで、今回は「吸収」について基本的な事を書きます。

 糖尿病を患(わずら)っている患者さんで、食べるモノ(食材)と健康との関係についてよく勉強している方なら「当たり前なこと」でしょうが、血糖を上昇させるのは口に入れた食材のカロリーだけが重要なのではなく、吸収効率(吸収のしやすさ)も大変大きな関係があるという事がよく言われています。

 例えば、同じカロリーを食べても、極端な話、白糖だけで100キロカロリー食べるのと白菜などの葉物野菜だけで100キロカロリー食べるのとでは、糖質の吸収のしやすさが違うので、食後の血糖の上がり方が違うということです。そのため、吸収のしやすさに応じて体から分泌されるインシュリンの量が全く違う結果になります。それで、糖尿病の食事療法には、摂取カロリーについてだけでなく、何を食べるかという食材に関する事と調理の仕方(焼く・煮る,と言う調理方法だけでなく味付けなども含めての調理)に関する事も注意点として指導されます。 そして糖質だけでなく他の栄養素についても、食材と調理、が重要なのは同じです。

 さて、食材によって栄養の吸収のされ方が違うことを書きました(詳しくは、ネットで、GI値、について検索して下さい)。では身体の方から考えた場合「吸収」に影響を与えるのはどのような事でしょうか?

 ここでは、胃癌で胃がなくなった、とか、大腸癌で大半の大腸を手術で切り取ってしまった、という大病を患った方の状態を考えるのではなく誰もが経験することで吸収に大きな影響を与えることについて2つ書きます。1つは歳を取ること、もう1つは噛むこと、です。この2つは吸収の仕方に大きな影響を与えますので、皆さんに知っておいて頂きたいと思います。

 実は、歳を取ると、胃酸の酸度が低下していき(つまり強い塩酸状態から、酸でもアルカリでもない中性方向に近づいていき)、人によって違いはありますが、70歳以降はお酢のもとである酢酸程度ぐらいの酸度になる人が多いのです。そして、分泌量も低下します。

 ですから、若い時のように、胃酸でドロドロに溶かして、それを小腸で十分吸収する、ということができにくくなります。「胃酸でドロドロ」の工程が弱くなるのです。そのために、歳を取れば取るほど、消化力が弱まり、吸収のしやすさが低下することになります。

 そして吸収のしやすさに影響を与える要素として「噛む事」が挙げられます。

 若い頃は胃酸が強く消化力が強いので、吸収もしやすく、噛む事に注意がいきませんが、例えば胃癌などで胃を部分的にでも取った人では「よく噛む事」が消化吸収に非常に重要であることを自覚される場合が多いと思います。

 ついでに言いますと、(当たり前と言えば当たり前ですが)一度にたくさん食べますと、胃の負担が大きく、消化力が落ちますので、同じ内容の食事をしていても、適量ずつよく噛んで食べるのとそうでないのとでは、吸収のしやすさが大きく異なります。

 このように「食べれば吸収」「食べる量=吸収する量」とはいきません。

 カロリー計算だけでなく、何を食べるか、どのように調理するか、虫歯はないか、よく噛んでいるか、などにも関心を持って下さいね。

大前 記(2020年11月4日)