1ヶ月ほど前のことですが、ちょっとした世間話をするぐらいに親しくなった患者さんから「先生、“あたまいた”と“しびれ”とどちらが難しいですか?」と突然質問されました。突然だったので「え??」って感じですぐには答えられなかったのですが、とっさに思い浮かんだ返事は「しびれ」でした。「しびれ」という表現には訴える人によっていろいろな内容が含まれているからです。人によっては、力が入らないこと、ズキズキ痛いこと、感覚が麻痺して無くなっていること、なども「しびれ」と表現されますから。
 そのため、「しびれ」について困って受診された患者さんには、その患者さんが言う「しびれ」ってどんな内容なのかを丁寧に聞く事から始まります。

「副鼻腔炎が関与している頭痛」

 では「あたまいた」は分かりやすいんですか?と言われると、もちろんそうではありません。「あたまいた」は「あたまいた」でとても悩みます。そういう悩まされる「あたまいた」の中でも、その病気が原因で受診される患者さんがそれほど少ないわけではないのに、いつも悩まされる「あたまいた」があります。(以下、頭痛、と表現します)

 それは、私にとっては、「副鼻腔炎が関与している頭痛」です。
 副鼻腔炎は、一般には、蓄膿(ちくのう)、と言われています。「蓄膿」は一般に言われているいわば俗名で、わりと身近な病気です。
 副鼻腔は、ネットで調べてもらえればすぐに分かりやすい図を提示されたサイトが出てくると思いますが、顔の奥にある空洞で、幾つかの空洞(副鼻腔)が左右対称に存在します。以下に「副鼻腔」の言葉でネット検索して見つけた分かりやすい図を引用します。

 両眼の下の頬骨の奥にあるのが上顎洞(じょうがくどう)、眉のとこにあるおでこの奥にあるのが前頭洞(ぜんとうどう)、両眼の内側の奥にあるのが篩骨洞(しこつどう)、その更に奥にあるのが蝶形骨洞(ちょうけいこつどう)、と呼ばれる空洞部分です。
 多くの方は、副鼻腔炎になると、眼の下で頬骨の奥の右か左か、悪い方が痛くなるので頭痛には関係ないだろう、と思われる事が多いようですが、それは、風邪引きや咽頭炎などが悪化して副鼻腔に侵入した細菌やウイルスが急に増殖する急性副鼻腔炎の場合は顔面痛が出現してきて「副鼻腔炎かな」と感じるのですが、もともと慢性副鼻腔炎を持っている人で、仕事や子育てに追われて、体調を一週間も二週間も崩されている時などに、慢性副鼻腔炎の急性増悪と言って、急に広範囲に炎症が広がることがあります。

 しかも、肩こりや首こりを持病で持っている方などでは、このような忙しいときには肩こりや首こりも悪化しますので、後頭部痛や後頚部痛も伴っている場合が多いのです。
 それで、ご本人は、首こりや肩こりから来た頭痛と思い込んで(自己診断して)そのようなストーリーで病気の経過を話されることが多いのです。
 更に、診断する医者の側にとってもっと難しくなるのは、偏頭痛を持病でもっている人(女性の場合が多いのですが)に副鼻腔炎が重なった場合です。
 どういうことかと言いますと、「体調の崩れ」自体が偏頭痛発作を起こしやすくするので、偏頭痛が重なって出現している場合があります。そして、ご本人は、偏頭痛発作だと思って病気の経過を話されるのですが、どこか痛みが違うのです。しかし、偏頭痛の激しい症状と言う気持ちで説明されるので、患者さんの話をそのままに聞いていると副鼻腔炎を見逃してしまう危険があるのです。

具体例を3例挙げてみます。

症例1:
 40歳代男性で中堅管理職で超忙しい立場の方。もともと肩こり・首こりのある人で「それが持病」という患者さん。2週間前から後頚部に重い痛みが出現。肩こりの薬を飲んで様子を観ていたら、次第に顔全体にズキンズキンという痛みがおきてきて額(ひたい)の部分に割れるような痛みが出てきたのでくも膜下出血を恐れて脳外科受診してMRIで脳動脈瘤チェックをしたが異常なし。安心したがズキンズキンの痛みは軽減しないので当院受診。診察中にふとやる手の仕草が右側の額の部分から同じ右側の眼の下の頬骨の部分あたりを触られるので不審に思い、鼻水があるかないか、あればその色合いはどういう色合いか、を確認して、右側の顔面を押さえると左側と違って違和感から鈍痛を訴えられたので副鼻腔のX-CT検査を行い、右側の副鼻腔の広範囲に膿(うみ)がたまっている事を確認。すぐに抗生物質で治療を開始して3日目から頭痛が軽減し出しました。

症例2:
 偏頭痛持ちの30歳代女性。従来の偏頭痛治療では治らない、ということで当院受診。私にとっては運の悪いことに、月経前に頭痛発作が出現したので、一見、偏頭痛発作のように見える発作。ところが、今回は、月経が終わっても収まるどころかだんだん痛くなってくる、ということで受診されました。鼻声無く、鼻づまり無し。つまり「鼻」に関係する症状なし。意志強固で偏頭痛の悪化!と主張。この方もよく聞くと、顔面にまで痛みが広がってきている、とのこと。おかしいな、と思い、顔面の診察を行って、左側の眼の下の奥に鈍痛を確認。X-CTにて左側の上顎洞という副鼻腔に膿がたまっていることを確認しましたが、この患者さんで教えられたのは、左側のインプラントをしておられて、そのインプラントが上顎洞内にまで貫いて出ており、それが副鼻腔炎の原因と考えられた事です。それで、鼻水や鼻づまりの症状がなかったのでした。しかも、月経前頃から炎症がひどくなっていたようで、そのために通常の偏頭痛を、ご本人は考えられたのでしょう。

症例3:
 もともとアレルギー性鼻炎のひどい方で「鼻づまりはしょっちゅう」との事。以前、首こりの悪化による頭痛で受診された事があるので今回もそういう痛みだと考えておられた様ですが、右側の頭部全体がズキンズキンと痛くてたまらない、ということで受診。鼻水・鼻づまり、はいつもと変わらず。しかし頭痛の範囲がとても広くて前まで(顔面まで)広がっている事が、首こりから来る頭痛にしてはおかしい。しかも首の圧痛が乏しく、右側の顔面の圧痛が目立つ事から副鼻腔をX-CTで確認すると、顔の奥、蝶形骨洞、というところにまで膿が充満。抗生剤を点滴するとともにすぐに耳鼻いんこう科に紹介しました。

このように……

 このように、副鼻腔炎が重なった頭痛は、いつもとは違う、とは言いつつもわかりにくい頭痛が多い様に思います。
 そして、何よりも、ご本人自身が“ひどい副鼻腔炎”を持っているとは思っておられない場合が殆どなので、患者さんの病気の経過についてのお話を聞いているだけでは見落とされる場合が多いように思います。
 よくある病気なんですが、頭痛に絡むととてもわかりにくい場合があるように思いましたので、今回ご説明しました。

大前 記(2021年8月29日)